日本国内における長年の風潮として、「生理痛くらいで仕事を休むのは甘え」「痛いのは皆同じ」といった精神論が根強く残ってきました。しかし、昭和・平成期に美徳とされた「耐える女性像」は、医学的知見から見れば重大なリスクを放置させる極めて危険なバイアスにほかなりません。
生殖医学の追跡研究によれば、十代や二十代で重度の月経痛を放置し続けた女性は、将来的に子宮内膜症の発症リスクが数倍に跳ね上がることが判明しています。子宮内膜に類似した組織が腹膜や卵巣、ダグラス窩(子宮と直腸の間の窪み)に生着・増殖を繰り返すと、卵巣チョコレート嚢胞や広範な癒着を形成し、不可逆的な卵管閉塞や排卵障害を引き起こします。つまり、「痛みを耐え忍ぶこと」は単にその日の快適さを犠牲にするだけでなく、将来的な妊孕性(妊娠する力)を静かに奪っていく行為に等しいのです。
学校教育や家庭環境において、「母親も痛みに耐えていたから」と母娘間で世代間連鎖を引き継ぐケースも後を絶ちません。しかし、現代社会を生きる女性の月経回数は、少子化や初経の早期化により、明治・大正期の女性と比較して約9〜10倍に増加しているという生物学的事実があります。現代人の子宮と骨盤は、歴史上かつてない頻度でプロスタグランジンの曝露と内膜剥離のストレスに晒されているのです。痛みを単なる生理現象と片付けず、身体が発信している異常アラートとして客観視する姿勢の転換が求められます。