さがんもんの行動様式を語る上で欠かせないのが、佐賀藩士・山本常朝の口述をまとめた『葉隠』です。「武士道というは死ぬ事と見つけたり」という一節があまりにも有名ですが、書物が真に説いているのは自暴自棄な死の賛美ではありません。毎朝「今ここで死ぬ覚悟」を定めることで、余計な名誉欲や保身を捨て去り、目の前の職責に一点の曇りもなく専念せよという冷徹な行動哲学です。
このストイックな規律意識は、幕末の佐賀藩を東アジア屈指のハイテク軍事拠点へと押し上げました。日本で初めて西洋式反射炉を築いて鉄製大砲の鋳造に成功し、蒸気船「凌風丸」を自力で建造。さらに当時世界最新鋭だったアームストロング砲を独自に製造配備した事実は、歴史の教科書でも特筆されています。
精神論に逃げず、オランダ語の専門書を泥臭く翻訳し、失敗を重ねながら鉄の精錬をやり遂げたエンジニアリング精神。これこそが「さがんもん」の神髄です。「口数は少ないが、数値と事実には妥協しない」「一度決めた合理的な方針はテコでも動かさない」という気質は、まさにこの科学技術立藩のDNAから受け継がれています。