インターネット上の掲示板やSNSで頻繁に散見されるのが、「スーパーで300円で買える素麺に、外食で1,500円を払うのは情弱ビジネスではないか」という批判的な言説です。しかし、この言説は手延べ製法の原価構造と店舗オペレーションの特殊性を見落とした典型的な誤解と言えます。
第一に、家庭用として広く流通している機械製麺と、専門店が採用する手延べそうめんとでは、原料小麦のグレードおよび製造コストが根本から異なります。手延べ麺は、熟成と引き延ばしを丸2日間繰り返して作られ、特に「古(ひね)」と呼ばれる蔵で1〜2年以上寝かせた熟成麺は、湿気と乾燥のサイクルを経てグルテンの結合が強化されています。この熟成麺は生産量が限られており、仕入れ原価は一般的な乾麺の数倍に跳ね上がります。
第二に、出汁に使用される天然素材のコスト高騰です。本枯節や昆布の価格が記録的な高騰を続けるなか、化学調味料に頼らず完全無化調で厚みのある旨味を構築するには、大量の節類を惜しみなく投入する必要があります。極細の麺は表面積が広く、つゆを大量に持ち上げるため、出汁の完成度がダイレクトに舌に伝わります。一杯千数百円という価格設定は、熟成手延べ麺の希少性と高級割烹並みの出汁原価を反映した妥当な対価なのです。