館内を巡ると、丸木夫妻の作品と共鳴するように、ドイツの女性版画家ケーテ・コルヴィッツのコレクションが並んでいる。第一次世界大戦で息子を奪われ、ナチスの弾圧に屈することなく、貧困や戦争に抗う民衆の姿を黒と白の線で刻み続けた芸術家だ。
息子の死を悼む母親の骨ばった手、飢餓に耐える母子のまなざし。コルヴィッツの版画が放つ精神性は、丸木夫妻の描く地獄図と驚くほど通底している。さらに、沖縄戦の過酷な真実を生存者の証言のみで淡々と紡ぎ出したドキュメンタリー映画『ひめゆり』の精神とも重なり合う。地域も時代も超え、権力が押し付ける大義名分の欺瞞を暴き、個人の名もなき悲哀に寄り添うこと。これこそが、佐喜眞美術館の収蔵品全体を貫く、血の通った反戦平和芸術の真骨頂である。