時計の針を巻き戻せば、武子さんの人生は娘・静香の才能を信じ、共に歩んだ激動のロードムービーでもあった。東京の下町で育ち、早くから芸能界へ足を踏み入れた娘を、母は常に一歩引いた場所から守り続けた。アイドル全盛期、凄まじい狂騒の中で自分を見失いそうになる少女を守るため、現場への送り迎えや衣装の管理まで、自らの手でこなした武子さんの苦労は察するに余りある。
ソロシンガーとして独立し、数々の名曲を世に送り出した時代も、母の存在は絶対的な指針だった。「どんなに有名になっても、感謝の心と謙虚さを忘れてはならない」。ポニーキャニオンのスタッフや関係者に対しても、常に腰を低く、真心を尽くして接した母の背中を見て、工藤静香という表現者は育った。彼女の持つ芯の強さとプロ意識の根底には、間違いなく武子さんの教えが刻み込まれている。