ドキンちゃんのアイデンティティを語る上で避けて通れないのが、敵対陣営であるはずの食パンマンへの激しい純愛です。ドキンちゃん しょくぱんまん 理由の発端となったのは、1989年1月30日放送のアニメ第16話「アンパンマンとぱんどろぼう」でした。森でばいきんまんの悪だくみに巻き込まれそうになった際、純白のマントをなびかせて紳士的に助けてくれたしょくぱんまんの気品と美しさに、ドキンちゃんは雷に打たれたような一目惚れを経験します。
「バイキンとカビ」を天敵とするパンの世界において、この恋は構造的なタブーです。しかし彼女は、「しょくぱんまん様」と呼び、部屋中にポスターを貼り、手作りのお弁当を届けようと試みるなど、純度100%の推し活を展開します。ここで驚くべきは、ばいきんまんの振る舞いです。
ばいきんまんが作戦を立てる際、しょくぱんまんが標的に含まれているとドキンちゃんから猛烈な妨害を受けるため、ばいきんまんにとって彼女の恋路は足かせ以外の何物でもありません。それにもかかわらず、時にはドキンちゃんの頼みを聞いてしょくぱんまんに接近するためのメカを開発したり、遠目から彼女の逢瀬を見守ったりと、奇妙な協力関係を結びます。嫉妬で狂う描写が一切ない点も、二人の間に男女の執着が存在しない決定的な証拠といえます。
さらに後年登場したコキンちゃん ドキンちゃん 関係が、この図式を一層複雑にします。ドキンちゃんの「妹分」として青い涙を武器にバイキン城へ乗り込んでくるコキンちゃんは、あのドキンちゃんすらも手を焼く唯一の存在です。ばいきんまんはドキンちゃんだけでなくコキンちゃんにも振り回されるポジションとなり、バイキン城のヒエラルキーは「コキンちゃん>ドキンちゃん>ばいきんまん」という強固なカーストを形成しています。