ネット上では、ワールドカップで中継カメラに抜かれる人々について「事前に仕組まれたサクラではないか」「事務所のプロモーションによるやらせではないか」という憶測が後を絶たない。しかし、この言説は中継制作の現場構造を知れば大きな誤解であることが分かる。
国際映像を統括するHBS(Host Broadcast Services)は、完全に中立な立場から世界200以上の国と地域へ向けて単一のフィードを提供している。何万人もの観客がひしめく巨大スタジアムにおいて、特定の事務所がカメラマンやスイッチャー(映像切替担当者)に賄賂を渡して事前に映るタイミングを打ち合わせるような工作は、制作ラインの物理的・倫理的観点から事実上不可能に近い。
中継カメラマンは、試合前のスタンドを数十台の高性能ズームレンズで常にスキャンしており、「目を引く笑顔」「個性的な応援スタイル」「会場の雰囲気を象徴するアイコン」を数秒で見極めてスイッチャーへと映像を送っている。選ばれるサポーターたちは、仕込みなどではなく、天文学的な確率のなかで自らのエネルギーとビジュアルを放ち、現場のプロフェッショナルの直感に選ばれた「本物の強運の持ち主」なのだ。