ふたりの共演作として絶対に外すことができないのが、鬼才・黒沢清監督がメガホンをとった心理ドラマ『予兆 散歩する侵略者』だ。映画『散歩する侵略者』のスピンオフとして制作された本作において、夏帆は徐々に日常が侵食されていく主人公の不安と恐怖を見事に体現。その傍らで強烈な異彩を放ったのが新井浩文の存在だった。
サスペンス映画としての恐怖を煽る演出の裏で、演者たちが醸し出すリアリティが作品全体の骨組みを支えていた。概念を奪う「概念泥棒」という不気味な世界観の中で、目に見えない脅威に直面した人間が魅せる滑稽さと悲哀。黒沢演出の独特な間とカメラワークが見事にハマり、静かな狂気がスクリーン全体を支配する屈指の傑作へと昇華した。