安室奈美恵さんの幼少期は、決して平坦なものではありませんでした。家族構成は、母親の恵美子さん、兄、姉、そして末っ子の奈美恵さんの4人家族。両親の離婚後、恵美子さんはシングルマザーとして、昼は保育士、夜はスナック勤務と身を粉にして働き、3人の子どもたちを女手一つで育て上げました。
小学5年生の時に沖縄アクターズスクールに才能を見出されたものの、当時の家庭環境では月謝やバス代を捻出するのも容易ではありませんでした。校長が特待生として学費を免除し、彼女自身も片道約1時間半の道のりを徒歩で通うなど、貧困の中で母と娘は支え合って夢を追い続けました。
事件の前年である1998年9月、母・恵美子さんは自著『約束―わが娘・安室奈美恵へ』を出版しています。この手記には、極貧の中で娘を信じ続けた母の深い愛情と、トップスターへと駆け上がっていく娘を遠くから見守る温かな眼差しが、偽らざる言葉で綴られていました。
手記の中で明かされていたのは、どんなに苦しい状況であっても「途中で投げ出さない」「自分の信じた道を貫く」という母と娘の間で交わされた固い約束でした。この手記の存在こそが、後に奈美恵さんが絶望の淵から立ち上がる最大の心の支えとなったのです。