筋を取らなければならない理由は明確ですが、いざ取り掛かると「身が真っ二つに裂ける」「筋に大量の肉が持っていかれてボロボロになる」という失敗が多発します。現場の検証から判明した、ささみ筋取り身が崩れる原因は主に3つあります。
最大の原因は、筋を抜くときの「引っ張る角度(ベクトルの向き)」の誤りです。ささみの筋繊維は、筋の走行に対して斜め前方に向かって規則正しく並んでいます。筋を上方向(斜め上や真上)に引っ張ってしまうと、筋繊維と腱を繋ぐ結節組織に対して直角に近い「引き裂き力(剪断応力)」が加わり、肉の繊維束がごっそりと引き剥がれてしまいます。身を崩さないための絶対原則は、肉に対して「ほぼ水平(180度)に逆方向へ引く」ことです。
第2の原因は、「指先の滑りによる断続的な強い衝撃」です。ささみの表面にはドリップや油分が付着しており、素手で筋の端を掴むと摩擦係数が極めて低い状態になります。滑る指先で無理に力を込めると、グリップが外れそうになるたびに肉に不規則な衝撃が加わり、繊細な筋繊維が破断します。
第3の原因は、「身の固定不足」です。筋を引き抜く力と同等の力で身を固定しなければなりませんが、肉自体を指で強く押し潰してしまうと、繊維が破裂して加熱時にそこから崩れていきます。「身を潰さずに、筋だけを通過させる隙間を作る」という物理的な制約をクリアできないことが、多くの人がつまずく壁となっています。