冠婚葬祭ののし袋や手書きの領収書において、10万円を格式高く正式に記す際の正解は「壱拾萬円」または旧字体の「壱拾萬圓」です。金額の頭に「金」、末尾に「也」を配した「金壱拾萬圓也」という表記が、現在日本の贈答儀礼において最も丁寧な形式と位置づけられています。
日常生活で用いる「十」や「万」ではなく、画数の多い複雑な漢字を用いる手法を「大字(だいじ)」と呼びます。大字を採用する根本的な理由は、極めて実用的な「改ざん防止」にあります。単純な漢数字である「一」は、後から線を書き足すだけで「十」「百」「千」へと容易に偽造できてしまいます。同様に「十」という文字も、上部に横棒を足せば「千」に、手を加えれば「百」に見せかける不正操作が物理的に容易です。
こうした金銭トラブルを遮断するため、古代の大宝律令(701年)の時代から公文書における大字の使用が制度化されてきました。近代以降も、明治政府が定めた公用文作成の指針や、商業登記規則第48条第2項、刑法の有印私文書偽造罪に関する判例群に至るまで、法的拘束力のある金融取引では「壱、弐、参、拾」といった大字の使用が厳格に規定されています。私たちが祝儀袋に大字を書く行為は、単なる形式美ではなく、「記載された金額の正確性を誓約し、不正の余地を残さない」という歴史的知恵の継承なのです。