検査結果を聞いた患者が最も困惑するのは、「体温計は36度台なのに、なぜ炎症が起きているのか」というギャップです。しかし、医学的な見地から言えば、熱がないのに炎症反応が出る原因は決して特殊な現象ではありません。発熱は、サイトカインが脳の視床下部にある体温調節中枢を刺激することで引き起こされますが、局所的な病巣や慢性化した病態では、体温中枢を書き換えるほどの血中濃度に達しないまま、肝臓でのCRP産生だけが持続することが多々あるからです。
典型的な事例が、高齢者の潜在感染です。加齢や免疫低下に伴い、細菌性肺炎や重度の尿路感染症(腎盂腎炎など)を発症していても、体温調節機能の衰えから熱が全く出ず、血液検査で「CRP 8.5mg/dL、白血球数 13,000/μL」という異常高値が出て初めて発覚するケースは臨床の日常茶飯事です。また、自覚症状に乏しい歯周病や根尖性歯周炎、副鼻腔炎といった頭頸部の慢性感染症も、CRPを0.3〜1.5mg/dL程度に押し上げる隠れた主犯格となります。
ここで、臨床上警戒すべき炎症反応で疑われる病気一覧を分類して整理します。
- 細菌・ウイルス感染症:肺炎、マイコプラズマ肺炎、胆嚢炎、憩室炎、腎盂腎炎、感染性心内膜炎など
- 自己免疫疾患・膠原病:関節リウマチ、高安動脈炎、結節性多発動脈炎、成人スチル病など
- 消化器系慢性炎症:潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患(IBD)
- 虚血・組織壊死:心筋梗塞、脳梗塞急性期、急性膵炎
- 悪性腫瘍:進行期固形がん(肺がん、大腸がん、腎細胞がん等)、悪性リンパ腫
このように、熱がないからといって安全宣言とはならず、むしろ「発熱という分かりやすい警報が出ないまま進行している静かなる炎症」こそ、精密な画像診断や追加採血を急ぐべきシグナルと言えます。