深部感覚が脱落すると、筋力自体は保たれているにもかかわらず、手足を滑らかに協調させて動かすことができなくなる。この状態を感覚性運動失調症と呼ぶ。実際にこの症状に直面した当事者は、日常生活においてどのような困難を抱えているのか。取材班が集めた医療関係者のカルテ記録や当事者の手記には、切実な告白が綴られている。
「まるで分厚いゴムマットや雲の上を歩いているようで、地面を踏みしめている実感がまったくない」「明るい昼間は普通にスタスタ歩けるのに、夜間や薄暗い廊下に入った瞬間、自分の両足がどこへ飛んでいくか分からなくなり、一歩も前に出せなくなる」――ある50代の会社員男性は、病初期の恐怖をそう振り返っている。この男性は、洗髪中に目をつむった拍子に後ろへ転倒し、頭部を打撲したことで初めて異変を疑い受診したという。
リハビリテーション室の観察記録からも、その特異な歩行形態が浮き彫りになる。深部感覚が失われた患者は、自分の足が床からどれくらい上がっているか分からないため、必要以上に足を高く跳ね上げ、踵を地面に強く打ち付けるようにして歩く「踵打ち歩行(踏みつけ歩行)」を呈しやすい。音や強い衝撃で足の位置を無意識に確かめようとする身体の防御反応だ。
さらにSNS上の健康コミュニティや知恵袋等の相談窓口でも、「ボタンの掛け違いが異常に増えた」「カバンの中の財布が手探りで見つけられない」といった微細な手指の違和感を訴える声が散見される。これらはすべて、深部感覚と複合感覚の低下によって生じる生活機能の崩壊のシグナルだ。