激しく泣いた直後から翌日にかけて生じる痛みは、単一の原因ではなく、複数の生体反応が連鎖して引き起こされています。眼科医や生理学研究の知見を総合すると、痛みの正体は主に3つの生理的要因に分類されます。
第1の要因は、涙の塩分浸透圧刺激と涙液層の破壊です。普段、角膜の表面は油層・水層・ムチン層という3層構造の涙液によって外気や摩擦から守られています。しかし、感情の高ぶりによって大量に分泌される「感情性の涙」は、平常時の基礎分泌涙と成分バランスが異なり、ナトリウムをはじめとする電解質濃度が急変します。大量の涙が角膜の油層を洗い流してしまうことで、露出した角膜上皮に塩分が直接触れ、強烈な浸透圧差が発生します。これが、目を洗った後や泣いた後に感じるヒリヒリとした痛みの直接的な引き金です。
第2の要因は、眼球痛毛細血管の炎症と組織の浮腫(むくみ)です。泣くという行為は、自律神経の急激な乱高下を伴います。激しい感情の昂ぶりによって交感神経が極度に緊張した後、嗚咽とともに血管作動性物質が分泌され、結膜や眼窩周辺の毛細血管が一気に拡張します。血管透過性が亢進すると、血液中の血漿成分が血管外へ染み出し、皮膚が極めて薄い(約0.5ミリ程度)まぶたの皮下組織に水分が急速に蓄積します。これが「泣き腫らし」の正体です。
第3の要因こそが、多くの読者を悩ませる「目の奥のズキズキ感」を生む神経経路です。目の感覚を司る「三叉神経(眼神経)」は、涙腺の分泌刺激を伝達する神経系と密接に連動しています。嗚咽する際に顔面全体の筋肉(眼輪筋や側頭筋)を過剰に収縮させ続けることによる筋筋膜性疼痛に加え、三叉神経の興奮が脳幹を経由して血管拡張性頭痛(片頭痛と類似のメカニズム)を誘発します。これが、泣いた後目の奥が痛い理由の根幹をなす構造です。