生産地の実態が南九州へシフトした一方で、食べる側の熱量を示す「消費量」でも興味深い逆転現象が起きています。総務省統計局が毎年発表する『家計調査』(二人以上の世帯における品目別年間支出金額および購入数量)において、常に熾烈なトップ争いを繰り広げているのが静岡県浜松市と三重県津市です。
とりわけ全国的な知名度に対して驚異的な数値を叩き出し続けているのが三重県津市です。かつて「日本一うなぎを消費する市」としてギネス級の話題を呼んだ津市では、1世帯あたりの購入数量や消費頻度において、東京都区部や大阪市を大きく引き離す年が珍しくありません。
津市でこれほどまでにうなぎが消費される背景には、独自の「大衆食文化」があります。現地で古くから暖簾を掲げる専門店の店主は、かつての地域紙インタビューでこう述懐しています。
「津の人間にとって、うなぎは決して気取った高級料亭の料理ではない。昔から『体調が優れない時』や『家族が集まる週末』に、出前を取ったり近所の店にサンダル履きでふらりと食べに行ったりする、生活必需品のような存在だった」
津市内には良心的な価格設定を守り続ける老舗がひしめき合い、並うな丼であれば2,000円台前半から楽しむことができる店舗も現存します。特権階級の贅沢品ではなく、日常の滋養強壮食として地域経済に深く組み込まれていることが、三重県津市うなぎ消費量を支える強固な土台となっています。
一方の浜松市も、市内に約70〜80軒ものうなぎ料理店が密集しており、地元の祝い事や法事、日常の会食で頻繁に重箱が囲まれます。さらに近年では、内陸に位置する栃木県宇都宮市や滋賀県大津市なども家計調査の上位に頻繁にランクインしています。海を持たない、あるいは海から遠い地域ほど、古くから貴重な動物性タンパク源として川魚を珍重してきた歴史的背景が数字に表れています。