「太らない人は筋肉量が多くて基礎代謝が高いからだ」と短絡的に語られるケースが散見されます。しかし、この言説には重大な医学的誤認が含まれています。成人の総エネルギー消費量のうち、安静状態で生命を維持するために使われる基礎代謝量は全体の約60%を占めますが、その内訳を精査すると驚くべき事実が見えてきます。
厚生労働省の生体組織データや各研究機関の分析によると、骨格筋が担う基礎代謝の割合は全体の約18〜20%に過ぎません。これに対し、肝臓が約27%、脳が約19%を消費しており、内臓系組織の代謝消費が筋肉を大きく上回っています。つまり、ハードな筋力トレーニングで筋肉量を1kg増やしたとしても、それによって純粋に増える基礎代謝量は1日あたりわずか13〜15kcal程度、アメ玉1個分にも満たない計算になります。「筋肉モリモリではないのに太らない人」が存在するのは、筋肉量以外の経路で激しくエネルギーが消費されている証拠です。
ここで鍵を握るのが、「NEAT(Non-Exercise Activity Thermogenesis:非運動性熱産生)」と呼ばれる日常活動代謝の個体差です。太らない体質の人は、ジムに通っていなくとも、階段を無意識に選ぶ、座っている最中も背筋を伸ばして頻繁に姿勢を変える、身振り手振りが大きい、歩行速度が速いといった微細な身体動作を1日中繰り返しています。メイヨークリニックの古典的かつ画期的な実験では、過剰な食事を与えられた被験者のうち、NEATが自律的に急増した被験者は体重がほとんど増えず、NEATが増加しなかった被験者のみに著しい脂肪沈着が見られました。この非意図的な運動熱産生の差は、1日あたり最大で約300〜800kcalもの開きを生み出します。
さらに見逃せないのが、インスリン感受性の高さと血糖値スパイクの抑制です。食事によって炭水化物が体内に入った際、血糖値が急上昇すると、膵臓から大量のインスリンが分泌されます。インスリンは別名「肥満ホルモン」とも呼ばれ、血中のブドウ糖を各細胞へ届けるだけでなく、余剰分を中性脂肪へ猛烈に変換・蓄積させ、さらに脂肪分解酵素の働きをストップさせます。太らない人はインスリンの効き(感受性)が非常に良好であり、少量のインスリンで速やかに血糖を処理できるため、脂肪蓄積のスイッチが長時間入らないという代謝的アドバンテージを保持しています。