背中をすっきりと見せる後ろ結びに対し、前結びは防寒性の向上とともに、着こなしにドラマチックな動きと表情を与える。ただし、大人の男性が前結びを取り入れる際には「甘くなりすぎない計算」が不可欠となる。
片花結び(ワンサイドボウ)のスマートな手順
男性がフロントで蝶結び(リボン結び)をすると、どうしてもフェミニンあるいは子供っぽい印象を与えがちだ。そこで推奨されるのが片花結びである。リボンの輪を片側だけに限定することで、洗練された大人の色気が漂う。
【片花結びの手順】
1. 前身頃で左右の長さを「1対2」の比率にしてクロスさせる(長い方を上にする)。
2. 長い方を下からくぐらせて一度固く引き締める。
3. 短い方のベルトを半分に折り、水平なループを作る。
4. 長い方のベルトをループの上から回し、背面の隙間から輪を押し出すようにして引き抜く。
左右非対称の立体感が生まれ、トレンチ特有の重厚感を程よく中和してくれる。
長すぎるベルトを克服する「ネクタイ結び」の真価
近年のゆったりとしたオーバーサイズコートでは、ベルト自体も長く設計されているケースが多い。「トレンチコートのベルトが長すぎて膝下まで垂れてしまう」という悩みには、ネクタイ結びが抜群の威力を発揮する。
ネクタイの結び方(プレーンノット)と同じ要領で、剣先をバックル側の上から一周巻きつけ、できた結び目の筒の中に上から下へと差し込む。結び目自体の厚みで長さを約15〜20cmほど自然に消費できるため、お直しで切断することなく理想的な長さに収めることが可能だ。スーツスタイルとの親和性も非常に高い。
ビジネスコートにおけるベルトマナーの境界線
「ビジネスシーンで後ろ結びをしたままクライアントを訪問しても失礼に当たらないか」という疑問を抱くビジネスマンは多い。結論から言えば、現代のビジネスドレスコードにおいて後ろ結びは完全に許容されている。
ただし、守るべき鉄則が2点ある。第一に、結び目が緩んでだらしなく垂れ下がっていないこと。第二に、取引先のビル内や室内に入る際は、玄関先でコートを脱いで片手に畳んで持つのが正統なビジネスマナーであるため、室内で後ろ結びが相手の目に触れる機会自体が本来は限定的である点だ。社外の人と街中を並んで歩く場面においても、ワンハンドバックルやバックノットで整えられた腰元であれば、知的で端正なプロフェッショナルの風格を損なうことはない。