言葉の使い分けにおいて最も混同されやすい論点が、二兎を追う者は一兎をも得ずと虻蜂取らずの違い、そして正反対のベクトルを持つ一石二鳥との対比です。
「虻蜂取らず(あぶはちとらず)」は、クモが虻(アブ)と蜂(ハチ)の両方を捕らえようとして糸を張り巡らせた結果、どちらも逃した上に網まで破られたという寓話に由来します。双方が「二つのものを欲張って共倒れになる」結末は共通していますが、決定的な差異は「欲の能動性」と「行動の動機」にあります。
「二兎を追う」は、野心を抱いて自ら意気揚々と二つの魅力的な目標へ駆け出す能動的な失敗です。対して「虻蜂取らず」は、どちらか一方を選びきれない優柔不断さや、中途半端な妥協によって双方が台無しになるニュアンスを色濃く孕みます。また、古来の表現には「欲の熊鷹(くまたか)股を裂く」(二匹の獲物を両足で同時に押さえつけようとして股が裂ける)という、肉体的な破滅を伴う凄惨な類似句も存在します。
一方、対極に位置する「一石二鳥」は、一つの行動で二つの利益を副次的に生み出す効率性を指し、エネルギーの投資先は常に「一つの投石」に絞り込まれています。