「1回しか着ていないし、目立つ汚れもないから陰干しだけで十分だろう」という判断は、翌年大きな後悔を招く典型例です。浴衣の長期保管において最も警戒すべき敵は、目に見えない水溶性の汗ジミに他なりません。
一般的なクリーニングの基本プランでは、型崩れを防ぐために石油系溶剤を用いた「ドライクリーニング」が主流です。しかし、ドライクリーニングは皮脂や油汚れを落とすのには極めて有効なものの、汗に含まれる塩分、尿素、アンモニアといった水溶性成分をほとんど溶解できません。溶剤のなかをくぐり抜けた汗の成分は、繊維の奥深くに残存し続けます。
放置された汗成分は、秋から冬にかけてクローゼット内の湿気や酸素と反応し、徐々に酸化していきます。これが翌年の初夏、タンスから浴衣を取り出した瞬間に直面する「襟元や背中の赤茶色・黄色のシミ」の正体です。さらに、汗の残留成分はカビ菌にとって格好の繁殖培地となるため、繊維の脆化(生地が破れやすくなる現象)や不快な異臭の発生へと直結します。
この惨劇を防ぐための必須オプションが、各社が用意している浴衣汗抜き加工料金(相場:500円〜1,000円程度)です。汗抜き加工は、生地を傷めない微細なウェット処理や特殊な水溶性汚れ分解溶剤を使用し、残留した塩分とアンモニアを根こそぎ洗い流します。もしこれをケチって放置し、翌年に頑固な酸化シミとなってしまった場合、通常の浴衣染み抜き料金として2,000円〜5,000円以上の特殊リペア費用が上乗せされる事態になりかねません。ワンシーズン着用した浴衣を収納する前には、基本料金に数百円を足してでも汗抜き加工を施すことが、結果として最も安上がりな自衛策となります。