厚生労働省の統計や日本脳卒中学会の報告によると、くも膜下出血を発症した患者の予後は過酷であり、およそ「3分の1が死亡し、3分の1に後遺症が残り、完全に社会復帰できるのは3分の1」という「3分の1の法則」が知られています。しかし、警告頭痛の段階で治療を受けられた患者の社会復帰率は極めて高い水準に保たれています。
それにもかかわらず、なぜ多くの前兆は見落とされてしまうのでしょうか。実際の生還者の手記や救急医療の現場報告からは、患者側に働く心理的障壁が浮かび上がります。
救命された患者の手記には、「発症の1週間前、仕事中に後頭部をピシッと針で刺されたような痛みがあったが、残業続きだったため眼精疲労だと思い込み、目薬をさして寝てしまった」「物が二重に見えた時、コンタクトレンズの度数が合わなくなったと勘違いして眼科の予約を入れている間に意識を失った」といった告白が散見されます。
心理学では、自分にとって都合の悪い情報を無視したり「大したことはない」と過小評価したりする心の働きを「正常性バイアス(Normalcy bias)」と呼びます。特に働き盛りである40〜60代の人ほど、「自分が突然倒れるはずがない」「忙しいから仕事を休めない」という心理が働き、身体が発したSOSを風邪や肩こりとして処理してしまう傾向が顕著です。