社会現象となった『ちいかわ(なんか小さくてかわいいやつ)』の大躍進に伴い、一部のライト層からは「くまはちいかわに取って代わられたのではないか」という懸念の声が上がった時期もありました。しかし、作品の内部構造をつぶさに分析すると、両者は互いを補完し合う不可欠な関係にあることが分かります。
ナガノ氏の作品世界において、くまは「現実世界の実体験を咀嚼するアバター」です。『MOGU MOGU食べ歩きくま』に代表されるように、早朝の築地で食べる海鮮丼の旨さや、旅先での些細な失敗、サウナでの恍惚感といったリアルな人間の五感を伝える役割を一手に担っています。
一方で『ちいかわ』は、資格試験の不合格や危険な討伐任務といった、社会の厳しさを投影したドラマチックな劇中世界が舞台です。作者であるナガノ氏にとって、現実の心地よい食と旅の記録を「くま」で描き、フィクションとしての不条理と友情を「ちいかわ」で描くという明確な表現の二刀流が確立されており、双方のファン層が「ナガノマーケット」をハブとして重なり合っています。