花王ロゴの月はなぜ向きを変えた?歴代の変遷と「怖い」噂の真相を追う

花王ロゴの月はなぜ向きを変えた?歴代の変遷と「怖い」噂の真相を追う

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近代広告の傑作として誕生した初代マークですが、現代のインターネット上やSNSでは、しばしば「花王の昔のロゴ、怖すぎないか」「子供の頃にパッケージを見て泣いた」といった声が拡散され、話題を呼ぶことがあります。

なぜ昔の月のマークは「怖い」と受け止められてしまうのか。その理由は、当時のデザイン思想と印刷技術の変遷にあります。明治から大正にかけて使われていた月の顔は、擬人化されたファンタジーというよりも、陰影の深い威厳ある成人男性の横顔でした。ぎょろりとした鋭い眼光、高く隆起した鷲鼻、引き結ばれた薄い唇、さらには髭をたくわえた老哲学者のような風貌は、夜店や暗い浴室で見ると強烈な威圧感を放っていたのです。

当時のグラフィックは、模倣品や偽造石鹸を防ぐための「偽造防止技術」としての側面も強く担っていました。そのため、浮世絵の木版印刷から近代的な細密銅版印刷への移行期において、職人が細部まで細密なエッチングを施しており、それが結果として独特のリアルさと怪奇性を生み出していました。

しかし、時代が昭和へ進むにつれて、消費者の価値観も変化していきます。家庭内の清潔を守る主婦層や子どもたちに親しまれるデザインが求められるようになり、花王は段階的なデザイン改訂に着手しました。1940年代には男性特有の険しい陰影が削ぎ落とされ、やがて柔和な女性の横顔へとシフト。そして戦後復興期の1953年(昭和28年)、大きな節目が訪れます。それまでの大人の表情から一転、ふっくらとした頬と愛らしい瞳を持つ「子どもの笑顔(赤ちゃんの顔)」へと大胆な若返りを果たしたのです。家庭の平和と清潔を体現するシンボルへの脱皮は、戦後日本の生活水準向上と見事に共鳴しました。

中島 亮太
著者

中島 亮太

シンプルで洗練された住まいづくりとインテリアコーディネートのアイデアを提案しています。