本作がプレイヤー層や音楽マニアから今なお熱烈な支持を集める最大の理由は、森雅樹が編み出す高度なギターアレンジとコードワークにあります。ロックバンドの定型的なコード進行とは一線を画し、1930〜50年代のジャズ、ビバップ、ボサノヴァのボイシングを独自の解釈でストリートミュージックへと昇華させています。
表題曲「満ち汐のロマンス」のコード進行を紐解くと、マイナーキーを基調としながらも、マイナーナインス(m9)やサーティーンス(13th)、ディミニッシュ、裏コード(トライトーン置換)が効果的に配置されていることが分かります。哀愁漂うAメロから、感情が昂ぶるサビにかけてのスムーズなツーファイブ(II-V)進行の解決は、聴き手に心地よいカタルシスと切なさを同時に与えます。
森雅樹のギタープレイは、単なるバッキングの枠組みを完全に超えています。時に繊細なアルペジオで中納良恵のボーカルに寄り添い、時に鋭利なカッティングと歪んだオブリガートでアンサンブルを牽引する様は、ジャンゴ・ラインハルトのジプシージャズやグラント・グリーンのソウルジャズを現代のクラブ感覚でアップデートしたものと言えます。生楽器のダイナミクスを活かした音像作りが、2026年代の打ち込み主体・クオンタイズされた現代ポップスにはない、生々しいグルーヴを生み出しています。