L役での爆発的な成功は、若手俳優にとって「イメージの固定化」という巨大なリスクと隣り合わせでした。しかし松山ケンイチの真骨頂は、その神話的な美少年像を自ら進んで解体していった点にあります。
2008年の映画『デトロイト・メタル・シティ』では、オシャレな渋谷系ポップスを愛する気弱な青年・根岸崇一と、悪魔的デスメタルバンドのカリスマボーカル・ヨハネ・クラウザーII世という両極端な二重生活を爆笑と狂気の中で怪演。前年のL役から完全に脱色されたその振り幅の広さに、業界関係者や映画評論家は舌を巻きました。さらに2010年には、村上春樹の世界的ベストセラーをトラン・アン・ユン監督が映画化した『ノルウェイの森』で主人公・ワタナベ役を繊細に演じ、ヴェネツィア国際映画祭のレッドカーペットを踏むこととなります。
松山ケンイチのキャリアにおける年代ごとの肉体変化、演技アプローチ、およびライフスタイルの変遷を整理した客観比較データは以下の通りです。
特に特筆すべきは、2016年の映画『聖の青春』における役作りです。29歳で夭折した天才棋士・村山聖を演じるにあたり、松山ケンイチは短期間で20kg以上体重を増やし、歩き方から扇子の扱い、病に苦しむ息遣いに至るまで生前の本人を完璧に再現しました。同作で第40回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞した際、「ビジュアルを綺麗に見せることなど、表現の本質の前では何の価値もない」と言わんばかりのプロフェッショナリズムは、共演者や監督陣から絶大な敬意を集めました。