実務で最も恐ろしいのは、代理人が悪気なく顕名を忘れてしまったケースです。法律はこのような不注意に対して極めて厳格なペナルティを用意しています。
民法第100条本文では、顕名のない代理行為について「代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす」と定めています。ここで使われている法文は「推定する」ではなく「みなす」です。つまり、「本当は本人の代理のつもりだった」「うっかり言い忘れただけ」という言い訳は法的に一切通用せず、代理人自身がその契約の当事者として代金支払いなどの義務を丸ごと背負わされます。
また、実務や資格試験で多くの人が混乱するのが無権代理と顕名の交錯です。両者の違いを構造的に整理すると、下表のようになります。
顕名をして初めて「無権代理かどうか」という議論の土俵に上がります。顕名すらしていなければ、無権代理云々を論じる前に「ただ代理人が自分個人の名義で買い物をしただけ」と扱われてしまう点に、契約実務の冷徹さがあります。