調理の現場では、トゲに対してどのような試行錯誤が行われているのか。山菜採り歴40年を超える長野県の山菜名人と、都内の人気天ぷら店主の肉声を取材すると、ネットの画一的な情報とは異なる現場ならではの実態が浮き彫りになります。
長野県飯山市の山林で毎年天然のタラの芽を採取している名人は、自らの採取・調理経験について次のように語ります。
「山の男木に生えるトゲは、鹿などの食害から芽を守るための鎧ですから、素手で触れば厚手の軍手越しでも刺さるほど硬い。採る時は必ず革手袋を使います。しかし、まだ葉が開ききっていない4〜5センチの若芽なら、我が家ではトゲを取らずにそのまま衣を薄くつけて揚げてしまいます。揚げたてのトゲはカリカリして香ばしく、トゲの根元にこそ山菜特有の強い旨味と野生の力強さが宿っているからです。ただ、7センチを超えて葉が開いてしまったものは幹のトゲが木化しているので、包丁の背でしごいて落とさないとさすがに口に刺さりますね」
一方、都内の天ぷら専門店店主は「料理としての完成度とおもてなし」の観点から異なる見解を示します。
「店でお出しする際は、たとえ小さな芽であっても必ず包丁の背でトゲを軽くなで、ハカマを丁寧に外します。油で揚げればトゲは砕けるとはいえ、年配のお客様やお子様が召し上がる際、ほんのわずかでもチクッとした感触があれば、それは料理人の怠慢と受け取られかねません。衣を薄くまとわせ、根元はホクホク、葉先はサクッと仕上げるためには、根元のトゲを均一に処理しておくことが仕上がりの美しさに直結します」
SNSやネット掲示板のコミュニティを分析しても、失敗談の多くは「天然の大きな芽をおひたしやパスタの具材にしてしまい、トゲが喉に刺さって痛い思いをした」というものに集中しています。逆に「スーパーで買ったパックのたらの芽をそのまま天ぷらにしたら、トゲなど全く気にならず絶品だった」という声が大多数を占めており、調理法(油か水か)と素材の出自(天然か栽培種か)の組み合わせを誤らないことが生死を分ける境界線となっています。