地球が生命にとって奇跡的なオアシスとなった背景には、月の強力な潮汐力が深く関わっている。原始地球の自転速度はわずか6時間程度だったが、月の重力による摩擦ブレーキが気の遠くなる時間をかけて自転を24時間へと減速させた。さらに、月が常に同じ面を地球に向ける潮汐固定(タイダル・ロック)のメカニズムと同様の重力相互作用により、地球の自転軸の傾きは約23.4度に固定された。天体物理学と地球科学の知見によれば、この傾きがブレなかったことこそが、極端な気候変動を防ぎ、穏やかな四季を維持してきた最大の要因である。
もし月が存在しなければ、地球の地軸は火星のように数百万年単位で0度から60度以上へと激しく揺れ動いていただろう。暴風が吹き荒れ、灼熱と極寒が目まぐるしく入れ替わる環境下では、複雑な多細胞生物の進化は極めて困難だったに違いない。海の干満が形成した広大な干潟は、太古の生物が海から陸へと進出するための決定的な足がかりとなった。生命の脈動は、まさに月の引力によって刻まれてきたのだ。