翻訳業と並行して熱狂的な支持を集めているのが、文芸評論・書評一覧に名を連ねる硬派な批評と、ユーモアと残酷なまでの観察眼が同居するエッセイ・人気著作群です。『熟女教育』『本の森の反逆者たち』『文学は予言する』といった著作では、古典から同時代カルチャー、ジェンダー論に至るまで、社会の構造的病理を軽やかに切り裂いています。
読者の関心が高い鴻巣友季子の夫と家族の実像についても、彼女自身のエッセイやインタビューにおいて率直に語られてきました。夫は、TBSの伝説的ディレクター・演出家として数々の名作ドラマを手がけ、後に評論家としても活躍した故・鴨下信一氏です。約28歳の年の差婚としても世間の注目を集めましたが、2人の関係は単なる夫婦の枠を超え、互いの知性を刺激し合う最良の対話者でした。
鴨下氏が晩年に病を患った際、鴻巣氏は翻訳と評論の過密な締め切りを抱えながら、自宅での壮絶な介護と看取りを経験しました。その経験から紡ぎ出されたエッセイは、家族社会学的な視点からも大きな反響を呼びました。「他者と生きることの困難と尊さ」を身をもって記したその文章には、虚飾のない生身の人間・鴻巣友季子の魂が刻まれており、多くの読者に深い共感と勇気を与えています。