「虫歯だらけの口の中を見られたら、説教されるに決まっている」という思い込みは、多くの患者が歯科治療を遠ざける最大の要因です。しかし、臨床現場に立つ歯科医師や歯科衛生士への取材、および日本歯科医師会などの関係機関が示す指針を検証すると、医療従事者が患者を叱責することは現代のスタンダードにおいて皆無に等しいことが明らかになっています。
現役の歯科医師複数名に取材したところ、口を揃えて次のような本音を語りました。
「重度の虫歯や多数の欠損歯を見ても、引いたり軽蔑したりすることは絶対にありません。むしろ歯科医師としての使命感とモチベーションが湧きます。『ここまで一人で悩み、痛みを我慢して辛かっただろうに、よくぞ勇気を出して来てくれた』という感情が先立ちます。私たちが戦う相手は患者さんではなく虫歯菌です」(都内開業医・歯科医師談)
かつて昭和や平成初期の医療現場では、生活習慣への指導が行き過ぎて高圧的に感じられる医師も一部存在しました。しかし、患者対応のインフォームド・コンセント(説明と同意)が徹底され、患者満足度が経営に直結する現在において、患者を叱責することは医院側にとっても重大なリスクでしかありません。現場のスタッフは毎日何十人もの多様な口腔内を診ており、ボロボロの状態は日常的な治療対象の一つに過ぎないのです。