年齢や水の飲み方そのものにも、病態を絞り込む重要なヒントが隠されています。単に「飲む量」だけでなく、「どう飲んでいるか」「前後に何が起きているか」を観察する必要があります。
まず、老犬が水をたくさん飲む理由には、先述した慢性腎不全やホルモン異常のほかに、加齢に伴う中枢神経の口渇シグナルの鈍化、あるいは認知機能不全症候群(認知症)に伴う強迫的な飲水行動が関係している場合があります。「水を飲んだこと自体を忘れて何度も水飲み場を往復する」ケースや、関節炎の痛みによる自律神経の乱れから飲水リズムが崩れることも珍しくありません。
一方で、年齢を問わず飼い主を狼狽させるのが犬が水をがぶ飲みして吐く原因です。器に顔を埋めて一気に水を吸い込み、直後に「ケホッ」と吐き戻してしまう光景には、複数の要因が絡み合っています。
短時間で胃の中に大量の水と空気が流れ込むと、胃壁が急激に引き伸ばされて迷走神経が刺激され、防御反射として胃内容物を吐き出してしまうケースがあります。この場合、吐瀉物は消化されていない透明な水と白い泡が中心です。しかし、これが頻発する場合や、吐き出そうと苦しそうに空嘔吐を繰り返す場合は要注意です。大型犬や深胸部(胸が深い)犬種で起きやすい急性胃拡張・胃捻転症候群(GDV)の超初期段階である恐れがあり、これは数時間を争う救命救急事態です。また、食道に水や食べ物が溜まってしまう巨大食道症などの構造的疾患も視野に入れなければなりません。
さらに見過ごせないのが、犬のストレスと飲水量変化の密接な関係です。引っ越し、家族構成の変化、長時間の留守番による強い分離不安から、気を紛らわせるための「常同障害(同じ行動を繰り返す心の病気)」として水をがぶ飲みする犬が存在します。これを医学用語で「心因性多飲症」と呼びます。身体的な疾患と心因性の見極めには、徹底した除外診断が必要です。