黒川雅之の偉大さは、造形物を作るプレイヤーにとどまらず、日本の美意識を世界に通じる普遍的な言語へと昇華させた思想家としての側面にある。彼が提唱した「素(so)」「仮(ka)」「陰(in)」「気(ki)」「間(ma)」「破(ha)」「婆(ba)」「微(bi)」という八つの美意識は、欧米主導の合理的デザイン論に対する真っ向からの対決であり、かつ深い敬意の表れでもあった。
西洋のデザインが空間を埋め尽くす「足し算の美学」であるならば、彼の解釈する日本の美は、不完全さや余白を受け入れる「引き算と関係性の美学」だ。影を恐れず、むしろ陰影の中に物事の真実を看取するその思考は、現代のデザイナーやクリエイターにとっても色褪せないバイブルとして機能し続けている。