群馬県内の怪談において特に目立つのが、山間部を貫くトンネルと渓谷に架かる橋梁にまつわるエピソードです。なぜこれらのインフラ施設に怪異が集中するのか、代表的な3箇所の歴史的経緯と現場構造から掘り下げます。
まず、桐生市黒保根町(旧黒保根村)に位置する城下トンネルにおける噂の真相について見ていきましょう。1973年に竣工した全長193.2mのこのトンネルは、わたらせ渓谷鐵道の城下駅近く、国道122号の旧道区間にあります。地元では「トンネル内で白い服を着た母子の霊が目撃される」「深夜にクラクションを3回鳴らすと怪奇現象が起きる」といった噂が30年以上前から語られてきました。
実際に現地を調査すると、新道(新しい城下トンネル)が開通して以降、この旧道トンネルは交通量が激減し、山からの湧水によって壁面が常に湿潤な状態にあります。群馬のトンネルで怪奇現象が報告される理由の多くは、こうした「旧道化による照明の減光」「湧水による反響音の増幅」「19Hz前後の低周波音がもたらす生理的な圧迫感」が複合的に作用した結果です。過去に周辺道路で交通事故が発生した事実はあるものの、「トンネル建設時に人柱が埋められた」「トンネル内で凄惨な母子殺害事件があった」という決定的な公的記録や事件報道は確認されていません。
続いて、みどり市大間々町の景勝地・高津戸峡に架かるはねたき橋で語られる心霊現象の理由には、明確な歴史的背景と地理的要因が絡み合っています。1994年に完成した全長120mの美しい歩行者専用吊り橋ですが、ここは戦国時代の1578年(天正6年)から翌年にかけて、里見氏と北条氏が激突した「高津戸城の戦い」の舞台となった場所です。川面から約30mという断崖絶壁の地形ゆえに、近代以降も投身による痛ましい事案が複数回発生しており、橋のたもとや遊歩道には命の尊さを訴える看板や防犯カメラが設置されています。つまり、古戦場の伝承と現代の事故史が重なり合うことで、「足を引っ張られる」「橋の中央で誰もいないのに話し声が聞こえる」という怪談が定着したのです。
さらに、高崎市から榛名湖へと向かう県道28号沿いにある琴平橋に関する体験談とネットの反応も根強いものがあります。「橋の近くにあった電話ボックスに女性の霊が立つ」「バックミラーに青白い顔が映り込む」といった体験談がネット掲示板で長年語られてきました。榛名山は古来より修験道の霊山であり、同時に夜間は走り屋(ローリング族)が集まる急峻な峠道でもありました。過去の重大な単独事故の記憶が、霧深い山岳道路特有の視界不良と結びつき、ドライバーの恐怖心を増幅させているのが実態です。