岸辺露伴の立ち姿が放つ強烈な磁場は、どこから生み出されているのでしょうか。多くの読者が抱く「なぜこれほど人を惹きつけるのか」という疑問の答えは、原作者・荒木飛呂彦氏が長年培ってきた西洋美術とモードファッションへの偏愛、そしてキャラクターの内面を身体で語らせる徹底した作劇術に隠されています。
荒木氏は自著『荒木飛呂彦の漫画術』や美術展の公式図録インタビューにおいて、自身のポージングの原点がイタリア・ルネサンス期の彫刻家ミケランジェロや、ヘレニズム期のギリシャ彫刻にあることを明言しています。古代彫刻に見られる「コントラポスト(Contrapposto)」――体重の大部分を片足に乗せ、左右非対称の緊張と弛緩を作り出す技法――を漫画表現の極限まで推し進めた結果が、ジョジョ立ちの基盤となりました。
そこに決定的な現代性を吹き込んだのが、20世紀のファッションイラストレーションとモード写真です。荒木氏は、アール・デコを代表するデザイナー・エルテ(Erté)の幾何学的で流麗な曲線美や、80年代のヴォーグ誌等で活躍したトニー・ヴィラモンテス(Tony Viramontes)のダイナミックで尖角的な描線から多大なインスピレーションを受けたと語っています。岸辺露伴というキャラクターにおいて、荒木氏の「ファッション ポーズ」への美意識は最も先鋭化された形で結実しました。
さらに見逃せないのが、「露伴の歪み」が持つ記号論的意味です。第4部『ダイヤモンドは砕けない』に登場する露伴は、好奇心のためなら他者の人生すら原稿の材料と見なす傲慢さと、極端なプロ意識を同居させたエキセントリックな存在でした。荒木氏は、あえて重心を不自然に崩し、指先を鋭角に反らせ、首を斜めに突き出す不穏なポーズを与えることで、露伴の内面に渦巻く偏執狂的なプライドと知性を視覚的に言語化したのです。絵画的な美しさと生理的な違和感が同居しているからこそ、見る者の視線は釘付けになります。