本作のミステリー要素における最大のハイライトであり、読者に最も強烈な衝撃を与えたのが、小説本来のヒロイン「ベアトリス・トランシェ」を巡る真相と、黒幕の正体です。原作小説の知識を持つレリアナは、物語が軌道に乗れば本来の主人公であるベアトリスが現れ、ノアと結ばれるはずだと信じ込んでいました。しかし、いくら待ってもベアトリスは社交界に姿を現さず、不穏な影ばかりがレリアナの身辺に忍び寄ります。
一連の暗殺未遂や怪事件を裏で糸引いていた黒幕の正体は、他でもない「ベアトリス」その人でした。さらに戦慄すべき事実は、そのベアトリスの肉体に宿っていた魂が「本来死ぬはずだった本物のレリアナ・マクミラン」だったという点です。
真相の全貌は、常軌を逸した魂の契約に起因していました。本来のレリアナは、自分がブルックスに毒殺される悲惨な運命を神官(予言者)から告げられ、死の恐怖に狂乱。運命から逃れるため、禁断の黒魔術を用いて「誰もが愛さずにはいられない完璧なヒロイン」であるベアトリスの肉体を強奪し、自身の魂を移し替えていたのです。空になったレリアナの器には、現代で命を落としたパク・ウナの魂が引き寄せられる形で定着しました。
ところが、死ぬはずだったレリアナ(中身はウナ)が持ち前の機転とノアの庇護によって生き延び、あまつさえ社交界の中心へと上り詰めたことで、ベアトリス(中身は本物のレリアナ)の狂気的な嫉妬が爆発。「自分が手に入れるはずだった公爵の愛と栄華を奪い返そう」と画策し、レリアナを完全に消し去るための毒殺や罠を仕掛けていたことが白日の下に晒されます。神聖力と呪術の因果を逆手に取ったウナ=レリアナの反撃により、自業自得の結末を迎えるベアトリスの崩壊は、伏線回収の美しさも含めて本作屈指の名シークエンスとして語り継がれています。