「カレー専門店」と紹介されることの多いビストロ喜楽亭だが、そのルーツは店名が示す通り本格的なフランス料理店にある。創業シェフが培ったフレンチの手法をカレーという国民食へと昇華させた点こそが、同店が他店と一線を画す最大の原点だ。
一般的な欧風カレー店がルウ主導で作られるのに対し、同店のベースを支えるのは牛骨や香味野菜を10時間以上煮込んで抽出したフォン(出汁)である。この滋味豊かなスープに、独自調合された28種類におよぶスパイス、丁寧に炒め上げた玉ねぎの甘み、上質なバターのコクが幾重にも折り重なる。スプーンを入れた瞬間に広がる豊潤な香り、舌の上でほどける奥深い旨味、そして後味に抜ける爽快な辛味のレイヤー構造は、洋食レストランの職人技が生み出した賜物と言える。
さらに、三宿という土地柄が育んだ空気感も見逃せない。バブル期の華やかな夜カフェ文化を牽引し、カルチャーの発信地として名を馳せたこの街において、気取りすぎず、それでいて上質な一皿を提供する同店は、近隣のクリエイターや食通たちにとっての「帰るべき場所」として定着した。時代が移り変わってもブレない味への信頼が、世代を超えたリピーターを生み出し続けている。