モーニング娘。の歴史を語る上で欠かせないのが、初代モーニング娘。結成理由にまつわる特異なプロデュース手法です。1997年、テレビ東京系オーディション番組『ASAYAN』で開催された「シャ乱Q女性ロックボーカリストオーディション」には、全国から約9,900通もの応募が殺到しました。グランプリに輝いたのは平家みちよでしたが、プロデューサーのつんく♂(現・つんく)は、最終合宿審査で落選した候補者たちの中に眠る突出した個性と原石の輝きを見逃しませんでした。
番組内で突如告げられたASAYAN結成オーディションの経緯は、極めて過酷なものでした。中澤裕子、石黒彩、飯田圭織、安倍なつみ、福田明日香の落選者5人を集め、「インディーズCDシングル『愛の種』を5日間で5万枚手売り完売できれば、メジャーデビューを約束する」という条件を突きつけたのです。インターネットもSNSも普及していなかった当時、タレント自身が直接手渡しでCDを販売するスタイルは異例中の異例でした。
1997年11月、大阪・HMV心斎橋を皮切りに、福岡、札幌、名古屋、東京へと移動するキャンペーンがスタート。メンバーは早朝から極寒の街頭に立ち、喉を枯らしながら道行く人々に声をかけ続けました。当時のツアードキュメンタリー映像には、冷たい雨に打たれながら指先をかじかませ、重いCDケースを運ぶ少女たちの剥き出しの涙と疲弊が生々しく記録されています。
そして迎えた1997年11月30日、東京・よみうりランドでの4日目の即売イベントにおいて、予定されていた5日間を待たずして見事に5万枚完売を達成しました。愛の種 手売り完売の真相は、単なる同情票や番組の演出効果ではありません。当時としては画期的だった「未完成な少女たちが苦難を乗り越えて成長する過程を視聴者が共有する」という、現代のリアリティ番組やファン参加型アイドルの原型となるエンゲージメントが爆発的な熱狂を生んだ結果でした。
この試練を乗り越えた5人は、1998年1月28日にデビュー曲 モーニングコーヒーで待望のメジャーデビューを果たします。オリコン初登場6位を記録し、同年の『第40回日本レコード大賞』最優秀新人賞を受賞、大晦日の『NHK紅白歌合戦』初出場へと駆け上がることになります。