彼女の絵画を前にしたとき、多くの人が「水彩でここまで描けるのか」と息を呑みます。その驚異的な表現を支えるのが、計算し尽くされた水彩画技法と、素材の特性を知り尽くした愛用画材のコンビネーションです。
技法の中核を成すのは、画面が濡れている間に素早く絵の具を落とし、紙の上で自然な混色と滲みを生み出す「ウェット・イン・ウェット(濡らし描き)」の極限的なコントロールです。永山氏はモチーフの細部をただ写し取るのではなく、背後の空間や影、空気の湿度までを一つの絵の具の「流れ」として捉えます。余白として白く残す部分(塗り残し)の潔さと、絵の具を洗い流して光を呼び戻す「リフティング」を自在に操り、紙の上に奇跡的な光の乱反射を現出させます。
この過酷な水の浸透と乾燥のドラマを支えるため、使用する画材には一切の妥協がありません。
- 水彩紙:フランス製の最高峰コットン100%紙「アルシュ(Arches)」を常用。300g/m²以上の厚手を用い、荒目・中目・細目をモチーフの質感(瑞々しい花弁、乾いた陶器、柔らかな布など)に合わせて的確に使い分けます。強靭な紙肌が、大量の水と激しい筆圧を受け止めます。
- 透明水彩絵の具:ホルベイン、シュミンケ(ホラダム)、ウィンザー&ニュートン、ダニエル・スミスなど、世界の一流ブランドから自らのパレットに必要な単一顔料を厳選。特にコバルトバイオレットやウルトラマリン、オペラなど、粒子の重さや沈殿傾向の異なる顔料を紙の上で意図的に分離(グラニュレーション)させる手法はトレードマークの一つです。
- 筆・道具:名村大成堂をはじめとする職人仕立てのキャッツアイ(平オーバル筆)や極太の丸筆、広範囲を湿らせる刷毛を愛用。指先やペーパータオル、塩、マスキング液までも駆使し、筆跡だけに頼らない重層的なテクスチャを創出します。