ファーストリテイリングの経営史において、最大の転換点として語り継がれているのが2005年の玉塚元一氏の退任と柳井正氏の電撃復帰劇です。1998年に入社した玉塚氏は、フリースブームの過熱とその後の反動減に苦しむ同社を立て直すべく、2002年に39歳の若さで社長に抜擢されました。
当時、玉塚氏が目指したのは店舗オペレーションの再構築と、急拡大によって生じた歪みを正す「守りを固めた安定成長」でした。しかし、この堅実な姿勢が柳井氏の掲げるアグレッシブな理念と決定的な摩擦を生むことになります。柳井氏は自著や当時の経済誌インタビューにおいて、「安定を志向した瞬間に企業は衰退へ向かう」「1勝9敗でもいいから果敢にリスクを取らなければ世界では戦えない」と繰り返し強調していました。
当時の会見で柳井氏は「経営理念の共有と事業展開のスピード感にズレが生じた」と率直に説明。安定を重視した経営計画に対し、年間売上高数兆円規模の世界企業を目指す創業者との間で妥協のない決断が下された瞬間でした。
ユニクロを離れた玉塚氏はその後、企業再生のプロフェッショナルとしてリヴァンプを創業し、ローソンの代表取締役社長・会長を歴任。現在は株式会社ロッテホールディングス代表取締役社長として同グループの構造改革を指揮しています。退任から長い年月を経た現在、玉塚氏はメディアの対談等で「柳井さんから徹底的に叩き込まれた経営の基本原則とスピード感は、現在の経営判断における最大の財産」と述懐しており、両者の関係は決して感情的な決別ではなく、経営哲学の純粋な激突であったことが窺えます。