能町みね子氏のバックボーンは、極めて知性的でありながら、個人のアイデンティティに対する深い葛藤と模索の歴史そのものです。北海道に生まれ茨城県で育った彼女は、難関の東京大学教養学部を卒業。一般企業でのOL勤務を経て世に出るきっかけとなったのが、2006年のブログ発エッセイ『オカマだけどOLやってます』でした。
出生時の身体的性別は男性でしたが、幼少期から性自認との不一致を抱えており、20代で性別適合手術(SRS)を受け、戸籍上の性別も女性へと変更しました。しかし、彼女の特筆すべき点は、「トランスジェンダー」や「LGBTQ当事者」という特定のラベルや政治的スローガンに自身を過剰に回収させない点にあります。
自らの身体や性別の移行について、手記やエッセイの中で客観的かつ時にユーモラスに言語化しつつも、「自分はあくまでひとりの個人である」というスタンスを貫いています。メディアが安易に貼ろうとする「感動的な克服ストーリー」や「性的マイノリティのアイコン」というタグを軽やかに拒絶し、自らの生活と言葉のリアリティを最優先にする姿勢が、読者からの根強い信頼へと繋がっています。