日本映画史において、近衛十四郎の殺陣の評判は別格の領域にあります。黒澤明監督作品や東映時代劇の現場で、重い本物の居合刀を神速で操り、相手役の寸止めをミリ単位でコントロールした超人的な剣技は、今なお時代劇ファンの語り草です。
関係者の手記や当時のインタビューによると、近衛十四郎は完璧主義の塊であり、自宅の庭でも木刀を握りしめて素振りを繰り返す日々を送っていました。その過酷な鍛錬を背後で支え、張り詰めた神経を解きほぐす場を作り出したのが水川八重子でした。
松方弘樹が生前、テレビ特番や自著で語った回想録には、家庭内での父と母の姿が生々しく記録されています。「親父は家でも豪放で、気に入らないことがあると雷を落とすが、お袋だけには頭が上がらない瞬間があった。お袋が静かに微笑んでお茶を出すと、親父の殺気がフッと消えるんだ」という証言は、妻・八重子の並外れた包容力を物語っています。