2019年9月12日、早朝の電撃速報がビジネス界に激震を走らせました。株式会社ZOZOがヤフー(現LINEヤフー)の傘下に入ること、そしてZOZOTOWN創業者として会社を牽引してきた前澤友作氏が代表取締役社長を即日辞任することが発表された瞬間です。同日午後に開かれた共同記者会見場では、ソフトバンクグループの孫正義氏が見守るなか、前澤氏は終始晴れやかな表情を浮かべつつも、「新しい道へ進みたい」「宇宙へ行くための準備に専念したい」と退任理由を語りました。しかし、その爽やかな決断の裏側には、緻密な経営判断と切迫した財務的要因が重層的に絡み合っていました。
第一の要因は、同社が社運を賭けて推進した自社プライベートブランド(PB)事業および採寸スーツ「ZOZOSUIT」の失速です。2018年3月期から鳴り物入りで無料配布されたZOZOSUITは、莫大な製造・配送コストを計上しながらも体型データの取得精度や配送遅延でトラブルが頻発しました。さらに、PB事業の大幅な赤字転落に伴い、2019年3月期決算では創業以来初の営業減益へと追い込まれます。同時に導入した有料会員向け一律10%値引きサービス「ZOZO ARIGATO」が既存出品ブランドの猛反発を招き、オンワードホールディングスなどの大手アパレルが相次いでZOZOTOWNから撤退する事態に発展しました。
第二の決定的な引き金となったのが、前澤氏個人の資金繰り問題です。現代アートの巨額収集やスーパーカーの購入、さらにはスペースX社との月周回飛行契約に伴う頭金の支払いなどにより、前澤氏は個人保有するZOZO株式の大半を金融機関に担保提供し、多額の借り入れを行っていました。株価の下落が続けばマージンコール(追加担保請求)が発生しかねない極限状態のなかで浮上したのが、ヤフーによるZOZO買収という選択肢でした。Eコマースの取扱高拡大を喉から手が出るほど求めていたヤフー側と、自社ブランドの再建および個人の財務リスク解消を急ぎたい前澤氏双方の利害が完全に一致した結果が、あの電撃退任劇だったのです。