『スチュワーデス物語』を語る上で絶対に外せないのが、片平なぎさ演じる新藤真理が「黒革の手袋を口にくわえ、歯でゆっくりと引っ張って脱ぎ捨てる」という衝撃的なシーンです。現れた無機質な銀色の義手をカチャリと鳴らし、村沢をじっと見つめるその姿は、当時の子どもたちが真似をして親に叱られるほどの社会現象となりました。しかし、この演出の裏側には、現場の過酷な試行錯誤と知られざる真実がありました。
後年のインタビューや関係者の証言によると、当初の台本には「歯で手袋を脱ぐ」というト書きは存在しませんでした。演出を手掛けた監督陣(大映テレビの巨匠・増村保造監督の強烈な美学を継承するスタッフたち)が、現場で「真理の執念と異常な心理状態をもっと視覚的に際立たせたい」と模索した結果、現場の閃きとして生まれた演出でした。
片平自身は当時20代前半の若手女優。あまりに不気味で突飛な演技指導に最初は大きな戸惑いと恐怖を覚えたといいます。「手袋の革の臭いや味が口に残って本当に苦痛だった」「街を歩けば道行く人に『怖い』と避けられ、近所の子どもたちに泣かれた」と後年振り返っています。しかし彼女は一切の妥協を排して役に没入し、あの鬼気迫る名場面を創り上げました。悪女役としての徹底したプロフェッショナリズムが、結果として彼女の女優生命を大きく飛躍させる契機となったのです。
また、日本航空(JAL)全面協力のもとで行われた撮影現場の過酷さも語り草となっています。実際の羽田・成田の訓練センターや実機モックアップを使用したロケは、訓練施設の一般稼働が終了した深夜から早朝にかけて行われることが日常茶飯事でした。主役の堀ちえみは当時高校生でありながら、連日の過密スケジュールと大映テレビ特有の徹底したリテイク(納得がいくまで何十回も撮り直す手法)により、睡眠時間は1〜2時間という極限状態で現場に立っていたと自著で明かしています。あの劇中で見せる千秋の切羽詰まった表情や涙には、演技を超えた本物の極限状態が滲み出ていたと言えます。