胴体のベースが整った後に最大の難所となるのが、胸郭周りの筋肉の重なりだ。特に腕の動きに連動して形がダイナミックに変形する肩周りは、解剖学的なメカニズムを理解していなければ正確に描くことはできない。
核心となるのが鎖骨と肩の接続メカニズムである。美術解剖学において、鎖骨は「腕の骨の一部」として扱われる。鎖骨の内側端は胸骨(ネクタイのような骨)にしっかりと関節結合しているが、外側端は肩甲骨と繋がり、胴体から浮いた状態で自由に動く。すなわち、腕を真上に上げたとき、肩関節だけが回るのではなく、鎖骨自体が胸骨の付け根を支点にしてカモメの翼のように約30度から40度跳ね上がる構造になっている。この連動を意識するだけで、腕を上げたポーズの不自然さは劇的に解消される。
さらに、説得力のある体幹部を構築するには胸筋腹筋の立体構造の把握が欠かせない。大胸筋は単なる板状の筋肉ではなく、鎖骨の内側半分、胸骨、肋骨から起始し、上腕骨の外側に「ねじれ込んで」停止している。そのため、腕を下げているときは大胸筋の外側が巻き込まれて厚みを持ち、腕を横に広げるとねじれが解けてフラットに引き伸ばされる。
一方の腹直筋は、みぞおちから恥骨にかけて縦に走る帯状の筋肉であり、腱画によって左右それぞれ通常3〜4ブロックに分割されている。ここで注意すべきは、腹筋は平面的に割れているのではなく、肋骨のカーブに沿って前方に弓なりに湾曲している点だ。特にへそは第3腱画の直下、骨盤の腸骨稜(腰骨の出っ張り)を結んだ水平ラインのわずか下に位置するというランドマークを死守することが、立体感を保つ鉄則となる。