映画本編および歌詞の中で強烈な存在感を放つのが「クジラ」のモチーフです。海洋生物学においてもクジラはその巨体で莫大な二酸化炭素を固定し、死後は海底に沈んで数百年におよぶ独自の生態系(鯨骨生物群集)を養う「命の循環の結節点」として知られています。本作におけるクジラは、個の命が宇宙全体へと還元されるプロセスを体現するシンボルです。
映画『海獣の子供』と主題歌『海の幽霊』の間には、表現視点において興味深い差異が存在します。映画が「誕生祭」という宇宙的・神話的スペクタクルを徹底した客観的ダイナミズムで描き出したのに対し、米津の楽曲はどこまでも「あなたとわたし」という極めてパーソナルな主観的親密さに立脚しています。壮大すぎる宇宙の営みの中に、取り残された個人の哀愁と愛おしさを繋ぎ止める役割を楽曲が果たしているのです。