「スタバではラテアートを頼めない」という言説は、半分正しく、半分は誤解に基づいている。スターバックスの公式レジメニューおよびPOSシステムには「ラテアート追加」というカスタム項目は存在しない。そのため、レジで「ハートのアートを描いてください」と指定注文しても、オペレーション規約上「アートの確約はいたしかねます」と丁寧に断られるケースが後を絶たない。
現場を取材すると、この対応の背景には同社が掲げる徹底した「スピードと品質の標準化」がある。通常店舗におけるビバレッジの提供基準タイムは、注文から受け渡しまで極めてタイトに設定されている。ミルクのスチームを微細に調整し、キャンバスとなるエスプレッソのクレマの上に繊細な模様を注ぎ分ける作業は、秒単位で列を捌く混雑時のカウンターでは物理的なボトルネックになりかねない。
加えて、決定的な要因となっているのが「テイクアウト用ペーパーカップ」の存在だ。テイクアウト客はもちろん、店内利用であってもデフォルトでは紙カップにプラスチックや紙製のリッドが装着されて渡される。フタを閉めてしまえば表面のアートは顧客の目に触れることなく崩れてしまうため、標準業務フローからアートの工程そのものが省かれているのが実情である。
しかし、これは「バリスタに描く技術がない」ことを意味しない。後述する条件を満たした環境下では、現場のバリスタが一杯に真心を込めてハートを描いてくれる奇跡的な瞬間が確かに存在する。