サイドストーリー群に対する世間の受け止め方は、公開当時と現在で大きな変遷を遂げています。大手レビューサイト(Filmarksや映画.com)、SNS上の反響、そして当時の製作関係者の回想録を検証すると、ある顕著なギャップが浮き彫りになります。
当時、青島俊作(織田裕二)の登場を期待して劇場へ足を運んだ観客の間では、青島が直接画面に映らないスピンオフに対して「物足りない」「踊る特有のコミカルな軽快さがない」という戸惑いの声が少なからず噴出しました。特に『容疑者 室井慎次』については、「重苦しすぎる」「救いがない」という賛否両論が巻き起こった記録が残っています。
しかし、当時の特番インタビューや自著・手記において、柳葉敏郎は「室井という男が背負ってきた孤独と責任の重さを、青島という光が届かない場所で表現し切らなければ、この男の人生に決着はつかない」という趣旨の覚悟を語っていました。事実、2024年の『敗れざる者』『生き続ける者』公開時には、映画ファンや長年のシリーズ読者から以下のような再評価の声が殺到しました。
「20代の頃は室井のスピンオフが暗くて苦手だったが、40代になって中間管理職の苦悩を知った今見返すと、胃が痛むほど傑作だと理解できる」「木島丈一郎の人情と灰島秀樹の偏執的なプロ意識が交錯するからこそ、湾岸署という特殊な所轄の存在意義が際立つ」
単なる人気キャラクターの延命策ではなく、「組織の中で正義を貫くことの不可能性と悲哀」を一貫して掘り下げたからこそ、20年以上の歳月を経てなお耐えうる強靭な作家性が証明されたと言えます。