本作の視覚的インパクトを支えているもう一つの要素が、大胆かつ緻密なファッション描写です。少女が身にまとっているのは、赤と白の大胆なチェッカーフラッグ柄――ポッピンを吹く女 着物の市松模様です。この市松文様は、歌舞伎役者の初代佐野川市松が舞台衣装に用いて以来、江戸の町で大流行した伝統の吉祥文様ですが、歌麿はただの幾何学模様として描いてはいません。
着物の表面には麻の葉の絞り染め(鹿の子絞り)の微細なテクスチャが施され、襟元からは鮮やかな紅色の襦袢(じゅばん)が覗いています。白・赤・黒のコントラストは、少女の初々しい肌の白さを際立たせるための完璧な計算に基づいています。さらに、当時の大判錦絵(縦約38.1cm×横約24.5cm)の背景には、贅沢な「雲母摺り(きらすり)」が施されていました。雲母(マイカ)の微粉末を膠(にかわ)で溶いて刷り上げることで、銀色に妖しく鈍く光る背景を作り出し、薄暗い江戸の行灯の下で少女がふわりと浮き上がって見える劇的なライティング効果を生み出していたのです。
従来の浮世絵が女性の全身像を捉えた「ファッションプレート(衣装見本)」に過ぎなかったのに対し、歌麿は思い切って胸から上だけをクローズアップする「大首絵(おおくびえ)」の手法を美人画に導入しました。衣装の美しさを保ちつつ、顔の微細な表情筋の動きや内面の揺らぎを画面いっぱいに拡大してみせたこの構図は、江戸の出版界を揺るがす視覚革命でした。