医療機関のWebサイトや広告で「眠っている間に終わる胃カメラ」「全身麻酔対応」と表記されているケースを目にするが、医学的な定義において、一般的な胃カメラ検査で手術室のような全身麻酔が施されることは極めて稀だ。ここで実際に投与されている薬剤の正体は、麻酔薬ではなく静脈内鎮静法に分類される鎮静剤(プロポフォールやミダゾラムなど)である。
この胃カメラと鎮静剤の違いを正しく理解することは、安全管理の第一歩となる。本格的な全身麻酔は完全に意識を消失させ、同時に自発呼吸も停止するため、気管内挿管を行って人工呼吸器を接続し、麻酔科医がつきっきりで生命維持を管理する。対して、内視鏡検査で行われる静脈内鎮静法は、患者の自発呼吸を残したまま中枢神経系の活動を抑え、恐怖心や咽頭反射を和らげる「鎮静状態」を作り出すものだ。
では、なぜ「全身麻酔なのに意識がはっきり残っていた」「会話が聞こえていて怖かった」という声が上がるのか。ここに胃カメラ全身麻酔で意識がある真相が隠されている。静脈内鎮静法の目的は、深い昏睡状態を作ることではなく「呼びかけにかろうじて応じる程度から、浅い睡眠状態」を維持することにある。鎮静剤の持つ「前向性健忘作用(検査中の記憶を抜け落ちさせる効果)」により、受診者の大半は「一瞬で眠って起きたら終わっていた」と錯覚するが、医学的には完全に意識を遮断しているわけではない。このメカニズムの違いを知らないまま受診すると、途中でうっすら意識が戻った際に「麻酔に失敗したのでは」と強い恐怖を感じる原因になる。