愛猫の腰から尻尾の付け根にかけて指先や手のひらでリズミカルに刺激を与える「尻尾の付け根トントン」。これに対して猫が背中を反らせてお尻を上げる理由は、単なる気まぐれではなく、猫の身体構造と本能的な記憶が深く結びついた生理現象です。
動物行動学および獣医生理学の見地から、この反応を駆動させる要素は主に3つ存在します。
第1に、神経集中と性感帯としての側面です。猫の仙骨周辺から尾椎にかけては、下半身の知覚や運動を支配する仙骨神経や馬尾神経系が密集しています。この神経叢は生殖器や肛門周りとも緊密に連動しており、刺激を受けると脳内に強い快感シグナルが送られます。人間でいう「ツボ」に近い性感帯の役割を果たしているため、軽く刺激されるだけで恍惚とした表情を浮かべ、腰を突き出すような姿勢をとるのです。未避妊のメス猫が発情期に見せる「ロードシス(背中を窪ませてお尻を持ち上げる交尾受容姿勢)」とも連動しており、ホルモンバランスによって反応の強さが劇的に変化することも知られています。
第2に、分泌腺とフェロモンの活性化です。猫の尻尾の付け根の背側には「尾腺(びせん)」と呼ばれる皮脂腺が密集しており、特有の臭毛フェロモンを分泌しています。猫同士が挨拶する際に互いの尻尾をピンと立ててお尻の匂いを嗅ぎ合うのは、このフェロモンを通じて個体識別や情報交換を行っているためです。飼い主の手によってこの部位が刺激されると、自らの匂いを周囲にマーキングしたい本能が刺激され、所有欲や親愛の情が満たされる構造になっています。
第3に、幼少期の記憶である「母猫への甘え」です。子猫は自力で排泄ができない生後数週間の間、母猫にお尻周辺を舐められる刺激によって排泄を促されます。尻尾の付け根をトントンと優しく叩かれたり撫でられたりする刺激は、母親に毛づくろいされていた当時の安心感をフラッシュバックさせます。成猫になっても残る「幼児返り」のスイッチが、この小さな骨の継ぎ目に隠されているのです。