「呂律が回らない」という状態を医学的に分類すると、主に構音障害(こうおんしょうがい)と失語症(しつごしょう)の2種類に大別されます。一般に「舌がもつれる」「喋りにくい」と感じる現象の大半は構音障害に該当しますが、両者は障害の発生部位も治療アプローチも根本から異なります。
構音障害とは、言葉を司る大脳の言語機能自体は保たれているものの、唇、舌、軟口蓋、喉頭など、音を作り出す筋肉や神経(顔面神経、舌下神経、迷走神経など)が正常に機能しなくなる状態を指します。本人は「何を話したいか」を完全に理解しており、適切な単語も頭に浮かんでいるのに、筋肉への神経伝達が途絶えているため、まるで「口の中に大きな飴玉を含んだような話し方」や「泥酔者のような不明瞭な発音」になります。特に、「パ行」「タ行」「ラ行」といった舌や唇を精密に動かす発音で顕著なもつれが現れます。
これに対し、失語症は大脳の左半球(多くの右利き・左利き共通の優位半球)にある言語中枢(ブローカ中枢やウェルニッケ中枢)が損傷を受けることで発生します。ろれつ自体は回っているように聞こえても、「言いたい単語の名前が出てこない(失名辞)」「他人の話している言葉の意味が理解できない」「全く意図しない別の言葉に置き換わってしまう(錯語)」といった高次脳機能の障害です。どちらの病態であっても、中枢神経系に突発的な血流途絶や出血が生じた強力な証拠となります。